Q1. 実効線量とは何ですか?
A1. 実効線量は、被ばくした臓器毎の放射線誘発がんの罹患率や遺伝性疾患のリスクを考慮し、全身への損害を評価した被ばく線量です。
Q2. ICRPとは何ですか?
A2. ICRPは、国際放射線防護委員会の略称です。
ICRPは、世界保健機構(WHO)の諮問機関の1つで、放射線防護に関する勧告(*1)を行っています。
このICRP勧告は、放射線防護の最も重要な基準で、日本を含む世界各国の放射線の関連法令の基本として採用されています。
(*1)International Commission on Radiological Protection. 国際放射線防護委員会の2007年勧告, ICRP Publication 103.
Q3.実効線量は測定値ではなく、推定値と表現するのですか?
A3.実効線量は、長さを物差しで測るように測定することができません。
まずQ1で説明したとおり、実効線量は放射線の絶対量ではなく、放射線による全身への損害(がん等の将来的な放射線の影響を含む)を考慮した被ばく線量の指標です。放射線による損害の程度は年齢や体格などの違いで異なるため、個人差があります。つまり同じ撮影条件でも、撮影される人によって実効線量は異なります。加えて、撮影の際の関心領域と照射野の位置関係等の違いによっても実効線量は変わります。全ての条件について計測を実施することは不可能なため、実効線量を計測する場合は特定の状況を想定して計測します。これらの理由により、計測結果は全てのケースに当てはまらないため、実効線量は一般に"推定値"と表現します(Q4、Q5参照)。
Q4.実効線量はどのように推定していますか?
A4.モリタ製作所では、岩井先生の論文(*2-5)を参考に、全身の人体模型と小型線量計を用い、最新版のICRP勧告であるICRP Pub.103 2007年勧告の荷重係数により、実効線量の推定をしています。
測定機器の詳細:
全身の人体模型:ファントム・ラボラトリー社製ランドファントム, 女性モデル(想定身長163cm, 想定体重54kg)
小型線量計:旭テクノグラス製蛍光ガラス線量計
(*2) 岩井一男. 多機能歯科用CTによる患者の臓器・組織線量と実効線量の推定. 歯科放射線, 2008 ; 48 : 61-67.
(*3) 岩井一男. 歯科用コーンビームCTによる患者の臓器・組織線量と実効線量の推定. 歯科放射線, 2008 ; 48 : 68-74.
(*4) 岩井一男. 小照射野コーンビームCT撮影における実効線量. 歯科放射線, 2000 ; 40 : 251-259.
(*5) T. Okano. Absorbed and effective doses from cone beam volumetric imaging for implant planning. Dentomaxillofacial Radiology 2009; 38: 79-85.
Q5.他社の公表値と、単純比較できますか?
A5. 推定条件が同一であれば比較することが可能です。しかし、現実には推定条件が異なる場合が多く、単純に比較することができません。例えば次の条件が変わると、結果が変わるため、値だけを比較すると誤解が生じます。
・X線照射条件(詳細はQ6を参照)
・算出に用いたICRPの勧告の年度の違い(詳細はQ7を参照)
・想定する人体の体格 (詳細はQ8を参照)
比較したい場合は、推定条件が同じかどうかをまず確認する必要があります。
Q6.X線照射条件により、実効線量は変わりますか?
A6.はい、変わります。
管電流、管電圧、照射時間、照射野などのX線撮影条件が変わると、実効線量は変化します。
・管電流、管電圧、照射時間が異なる場合の影響
これらの設定値を下げるとX線の発生量が低下するため実効線量も低下します。しかしその反面、得られる画質が低下します。単純には、下記のように表現できます。
実効線量が小さいと、画質が悪い。
実効線量が大きいと、画質が良い。
そのため最も低いX線照射条件に設定すれば実効線量は下げられますが、現実的ではありません。
したがって、現実の撮影を考慮して実効線量の比較を行うためには、同等の画質を得られるX線照射条件で行うことが重要です。
・照射野が異なる場合の影響
照射野を小さくすることで、実効線量を小さくすることができます。なお、照射野の違いは、画質への影響がほとんどありません。
Q7.ICRPの勧告年度により、実効線量は変わりますか?
A7.はい、変わります。
組織・臓器ごとの放射線に対する影響(組織荷重係数)は、ICRPの勧告毎に更新されます。従いまして、実効線量は、計算に使用するICRP勧告の年度で異なります。
また、前勧告(ICRP Pub.60 1990年勧告)から最新勧告(ICRP Pub.103 2007年勧告)への換算は、容易にはできません。
参考として、Veraviewepocs 3Dの場合、最新勧告で推定した実効線量は、前勧告の約2倍に増加します。
Q8. 想定する人体の体格の違いによって、実効線量は変わりますか?
A8.はい、変わります。
実効線量は、想定する人体の体格に依存します。
モリタ製作所では、想定身長163cm, 想定体重54kgの全身の人体模型により実効線量の推定を行っています。
(詳細はQ4を参照)